国内MBA、MOT大学院の社会人入試に際し、おおよそほとんどの大学で受験科目となっているのはTOEIC、レジメ、そして小論文の3つ。
TOIECのスコアアップは大学院入試以外でも多くのサイトで語られています。レジメに関してはまた別の記事で書こうと思いますが、小論文について何を準備すればよいのかわからない方も多いのではないでしょうか?
小論文の基本的な書き方は練習すれば誰でも身につけることはできますが、国内MBA、MOT大学院入試の採点者にとって、どういう切り口でお題について論じれば、オリジナリティを出せてスコアアップを狙えるか、なかなか悩ましいところです。
この記事では、採点者に「おっ!?」と、興味をもってもらうための『引き出し』をなるべく多く準備するために、
- 社会人入試で必須のビジネス本をカテゴリー毎に紹介
- 更に入学後の課題図書やケーススタディに役立つ本の選び方の紹介
を行います。
ただでさえ時間の無い社会人受験生が効率的に受験対策ができ、さらに入学後の課題図書やケーススタディにも役立つと思います。
じっくりお読みいただければと思います。
社会人大学院入試でなぜビジネス本が必要なのか?
国内MBA、MOTの社会人大学院入試でなぜビジネス本が必要なのかを説明します。
小論文の配点構造
まず初めに、高校生であろうが社会人であろうが、入学試験で合格の称号を手にするためには、受験者の中で何らかの基準に則ったスコアに従って、一定数の定員の中に入らなければなりません。
つまり、他の受験者との競争になるため、数学だったら計算問題、国語だったら漢字問題のようにやればできる基礎問題をクリアすることは大前提であり、文章題や考察のように能力によっては得点に差がでやすい分野でいかにオリジナリティを出し、採点者に高い得点をつけてもらえるかが勝負の分かれ目となります。小論文に当てはめると以下のように整理できると思います。
- 基礎問題 = 小論文の書き方(論理展開、論理構造)
- オリジナリティ = 採点者の思考に合った切り口
採点者の思考
小論文の書き方については沢山の参考書がでているのでここでは割愛しますが、採点者の思考に合った切り口で小論文を書くことは以下の3つのメリットがあります。
- 切り口の説明が不要
例えば売り手と買い手の力関係をその業界の環境を俯瞰して説明しようとするときに、「5 forcesの買い手の視点に立つと、~」と書くだけでMBA、MOT入試では一般用語と捉えられて説明不要です。
- 文字数を削減できる
わざわざ、くどくど説明してしまうと採点者は読むのが億劫になり、最悪、書くネタがなくて文字数稼ぎかと思われ、減点の対象になる可能性すらあります。
- アピールしやすい
経営用語やフレームワークをあらかじめ勉強しているアピールができ、さらに削減したことで浮いた文字数の中に自分のオリジナルな主張を入れることが可能になります。
経営用語の理解
小論文にオリジナリティを出すために経営用語やフレームワークを使う際、それらをしっかり理解した上で正しく使わないと、逆にもろ刃の剣となり大きな減点になる可能性があります。しっかり理解するためには、しっかり書かれたビジネス本を読む必要があります。経営学はサイエンスではなく社会学であり、カテゴリー分けが難しい印象を個人的に持っています。例えば高校数学だったら代数学、幾何学、微分積分とかすんなり入ってきますが、経営学では企業戦略と競争戦略のように、MECEな関係でなくてもどちらも成り立っている分野が多々あります。このように、フレームワークを経営に使う場面が異なる、つまり経営のプロセスをカテゴリーとして定義するのが私のおすすめの解釈です。
なお、用語集で2~3行程度の説明で理解した気になってしまうのは、危険であることを心の片隅においておいてください。用語集のみで理解した内容を小論文の切り口キーワードに使うのではなく、問題文で出てきた際に意味が分からないことを避ける目的として、知っておく程度にとどめておいた方がよいと思います。
以上のように、小論文の配点構造を考えると、自己アピールするために採点者の思考にそって論理展開することが重要であり、ビジネス本を読んで経営用語を正しく理解して、小論文に活用することで、他の受験生よりも高いスコアを目指しましょう。
ビジネス本を選ぶときのカテゴリー
MBA、MOT系の社会人大学院の複数校受験を考えている場合、共通した入試対策として、経営のプロセスをカテゴリーとして定義し、各カテゴリーで代表的なビジネス本を選んで読み込むことをおすすめします。また、優先順位の高い志望校向け対策をしたい場合、志望校に特化したカテゴリーを設定することで合格率を高められると思います。
経営プロセスに沿ったカテゴリー
小論文の課題に何が出題されるかは、問題用紙を表にひっくり返すまでもちろんわからないですが、論述する内容をどこにもっていくかは自分次第。経営の大学院への入学をめざしているので、経営を切り口に小論文を書き上げることで減点されることは考えづらいです。経営と一言でいっても様々な切り口がありますが、目的は高スコアを出すためなので、そのためにどんな切り口を選択するか、が重要です。そこで、一般的な経営戦略策定の超ザックリした流れ、プロセスを考え、カテゴリー分けをし、それぞれのカテゴリーでの代表的な理論が書かれているビジネス本を読み込んで、多くの引き出しを蓄積しておくことが、小論文の試験対策として機能すると考えます。
ザックリとした経営プロセスを以下に定義してカテゴリーを決めますが、これは人それぞれ考え方があり、業界によっても様々だと思いますので、疑問に思った方はご自身で定義してみることをおすすめします。それによって自分の頭が整理でき、小論文を書くときに開く引き出しの精度も向上すると思いますので。(もしよかったらフィードバックいただけると助かります、私も継続して勉強したいので)
環境分析カテゴリー
企業が利益を継続的に計上して成長していくためには、企業を取り巻く外部環境と、当社が利益を産み出すための内部リソース、内部環境をしっかり分析し、それらを掛け合わせて統合的に環境分析をする必要があります。
ドメイン設定カテゴリー
狭すぎるドメイン設定は大きな環境変化への対応ができなくなり、広すぎるドメイン設定は経営資源分散のリスクが生じます。環境分析の結果、リスクとリターンを考慮して明確なドメイン設定を行って企業経営していく必要があります。
戦略策定カテゴリー
ドメインを設定し、外部環境分析、内部環境分析から、自社が取りうる最適な戦略を決め、全社リソースの方向性を定める必要があります。戦略の定石を参考に、それらを組み合わせたり、最適化して実行可能なアジェンダとしてトップダウンで意思統一を行います。
戦略実行のカテゴリー
経営者が策定した経営戦略を正しく実行するために、組織を構成し、従業員を動機づけ、目標・成果を正確に管理して、設定したマイルストーンを乗り越えていく必要があります。
以上、戦略策定の経営プロセスの例を基に4つのカテゴリーを定義しました。
志望校特化型カテゴリー
優先順位の高い志望校向けの対策をしたい場合、志望校に特化したカテゴリーを設定することで合格率を高められると思います。志望校がどのようなカテゴリーを好むか、さらに考えると、小論文の採点者がどのようなカテゴリーを選んだ場合にハイスコアを与えやすいか、を想像します(正解はありませんが仮説をおくことは大事ですよね・・・)。
そもそも大学院の教授は、自分やゼミの研究者と論文を書いて、世の中に知を蓄積したいと思っているはずです、たぶん。もしくはジャーナルに掲載されることでメディアに取り上げられ、TVコメンテータや評論家になりたいという、承認欲求をもっていらっしゃる方もいるかもしれません。学生への期待としては、学生がより価値のある研究成果を出すことで、その学校の集客力を上げることに貢献してほしいと思っているはずです。それに対して学校側が学生へ提供するのは、多くの志高い学生を集め、議論を活性化させ、オープンイノベーションを起こす機会を与えたりすることでしょう。その機会は概ねゼミや授業を通して行われます。ビジネススクールのゼミや授業で典型的な方法はケーススタディで、そのケーススタディにはオリジナルの素材を開発している場合もありますが、単に課題図書が決められている場合があります。
それがその志望校に特化して読むべきビジネス本です。
私の完全な主観ですが、教授はただやみくもに課題図書を選定しているわけでなく、上記の目的、つまり、よりよい研究ネタのキッカケを、毎年入ってくる頭がフレッシュな学生から効率的に集めいたい、と思っていると想定します、仮に私が教授だとしたら。もしくはその教授が書いている本の印税狙いで課題図書としているのであれば、なおさらその文脈を小論文に使うことは減点になりにくいと思います。
では、どうやってそのカテゴリーとビジネス本を特定するかというと、簡単です、志望校のシラバスを見ることです。
以上、志望校の採点者の思考を想像してみつつ、そこに寄り添った形でのカテゴリー、ビジネス本選定の仕方を考えてみました。
本ブログのMBA/MOTカテゴリーでご紹介している内容は、以下の記事をご参照ください。
カテゴリー別の推薦ビジネス本
ここまでで、小論文の受験対策をするためのビジネス本のカテゴリーを以下4つ提案しました。
- 環境分析カテゴリー
- ドメイン設定カテゴリー
- 戦略策定カテゴリー
- 戦略実行のカテゴリー
- 志望校特化型カテゴリー
各々について、ビジネス本を推薦したいと思います。
環境分析カテゴリー
外部環境分析
PEST分析(フィリップ・コトラー)

コトラーの戦略的マーケティング―いかに市場を創造し、攻略し、支配するか
- 作者: フィリップコトラー,Philip Kotler,木村達也
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2000/02/01
- メディア: 単行本
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5 Forces分析(マイケル・ポーター)

- 作者: M.E.ポーター,土岐坤,服部照夫,中辻万治
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
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内部環境分析
Value Chain分析(マイケル・ポーター)
VRIO分析(ジェイ・B・バーニー)

- 作者: ジェイ・B・バーニー,岡田正大
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2003/12/05
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統合分析
SWOT分析
3C分析

ストーリーで学ぶ戦略思考入門―――仕事にすぐ活かせる10のフレームワーク
- 作者: グロービス経営大学院,荒木博行
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
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ドメイン設定カテゴリー
マーケティング近視眼

マーケティングの教科書――ハーバード・ビジネス・レビュー 戦略マーケティング論文ベスト10
- 作者: ハーバード・ビジネス・レビュー編集部,DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
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戦略策定カテゴリー
3つの基本戦略 (マイケル・ポーター)

- 作者: M.E.ポーター,土岐坤,服部照夫,中辻万治
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
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競争地位別戦略 (コトラー)

- 作者: Philip Kotler,Kevin Lane Keller,恩藏直人,月谷真紀
- 出版社/メーカー: 丸善出版
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- メディア: 単行本
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成長ベクトル (アンゾフ)
コア・コンピタンス(ハメル、プラハラード)

コア・コンピタンス経営―未来への競争戦略 (日経ビジネス人文庫)
- 作者: ゲイリーハメル,Gary Hamel,C.K.プラハラード,C.K. Prahalad,一條和生
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2001/01/01
- メディア: 文庫
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戦略実行のカテゴリー
バランススコアカード(キャプラン、ノートン)

- 作者: ロバート・S・キャプラン,デビッド・P・ノートン,櫻井通晴
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2001/08/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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組織論(バーナード)

- 作者: C.I.バーナード,山本安次郎
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
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志望校特化型カテゴリー
志望校特化型カテゴリーですが、これはみなさまそれぞれ異なりますので、各校のシラバスを検索してみてください。
なお、私が修了した東工大MOTでもシラバスが公開されていますが、オープンハウスにて直接教授と会話したときにお勧めされ、今でも読んでよかったなと思う本を推薦させてください。
経営全般
技術経営 (延岡健太郎)
マネジメント (P.F.ドラッカー)
![マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則 マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/41AY8WEF74L._SL160_.jpg)
- 作者: ピーター・F・ドラッカー,上田惇生
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2001/12/14
- メディア: 単行本
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イノベーション系
イノベーション1 (P.F.ドラッカー)

- 作者: P.F.ドラッカー,上田淳生
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2007/03/09
- メディア: 単行本
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イノベーション2 (クレイトン・クリステンセン)

イノベーションのジレンマ (―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press))
- 作者: クレイトン・クリステンセン,玉田俊平太,伊豆原弓
- 出版社/メーカー: 株式会社翔泳社
- 発売日: 2011/12/20
- メディア: 新書
- 購入: 59人 クリック: 811回
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イノベーション3(チェスブロウ)

OPEN INNOVATION―ハーバード流イノベーション戦略のすべて (Harvard business school press)
- 作者: ヘンリーチェスブロウ,大前恵一朗
- 出版社/メーカー: 産能大出版部
- 発売日: 2004/11/10
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 64回
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プラットフォーム戦略(マイケル・クスマノ)

プラットフォーム・リーダーシップ―イノベーションを導く新しい経営戦略
- 作者: アナベルガワー,マイケル・A.クスマノ,Annabelle Gawer,Michael A. Cusumano,小林敏男
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2005/03/01
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 30回
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まとめ
私は大学院受験を決めたとき、小論文は一度も書いたことも習ったこともなかったのと、ノウハウ的なものをお金で効率よく得るために、河合塾の社会人MBA・MOTコースに通いました。そのコースでは、上記のような経営学のフレームワークを、オリジナルのテキストでザックリ講義してくれ、そのキーワードを使った小論文の課題がでて、講師の方に添削をしてもらいました。小論文対策のビジネス本に関しては、河合塾のテキストに参考文献が乗っているので、片っ端から読み漁りましたが、受験までには概ね20~30冊程度読んだと記憶しております。
大体計画通りには行かないのですが、ある程度課題図書を決めておけば、土壇場で読んだり、最悪、持ってるだけで安心材料になるかも(笑)。
ただでさえ時間の無い社会人受験生が効率的に小論文対策ができ、さらに入学後の課題図書やケーススタディにも役立てばと思います。
本ブログのMBA/MOTカテゴリーでご紹介している内容は、以下の記事をご参照ください。